本間宗究(本間裕)のコラム

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2013.1.17

1兆ドルのプラチナ硬貨

1月8日のマスコミ報道によると、「ノーベル経済学者のクルーグマン氏」などが、「額面が一兆ドル(約90兆円)のプラチナ硬貨を鋳造し、連邦準備制度に預ける」という案を提唱したそうである。ただし、この案については、その後、政府やFRBなどにより否定されたのだが、「なぜ、このような提案がなされたのか?」を正確に理解することにより、「今後、アメリカの国債上限問題が、どのように推移するのか?」が見えてくるものと考えている。

つまり、この報道は、現在の「アメリカの国家債務問題」が、「きわめて危機的な状況に陥っている」ということを意味するとともに、「今後、どのような解決策が導かれるのか?」について、たいへん興味深い点を示唆した意見とも考えられるのである。具体的には、「実質的に16万円程度の価値しか持たない1オンスのプラチナコイン」に対して、「約90兆円もの額面を付ける」ということは、「そのコインに対して、5万倍以上の信用を付加する」ということを意味するからである。

別の言葉では、「日本の1万円札」を考えた場合に、「原価が20円弱の紙幣」に対して「約500倍の信用を付加する(20×500=10000)」という行為の延長上として、このようなアイデアが出てきた可能性があるわけだが、過去の歴史を見た場合には、実現性が乏しく、かつ、荒唐無稽な考え方とも言えるようである。つまり、「1923年のドイツ」の場合には、「ハイパーインフレ」が進行した結果として、最後の段階で「1兆マルクのコイン」が発行されたのだが、今回は、「1兆ドルのコインを鋳造すれば、ハイパーインフレにならない」と考えているようにも思われるのである。

しかし、このことは、典型的な「机上の空論」であり、実際には、「国家や通貨の信用を維持する」というよりも、反対に、「世界中の人々に、現在の通貨に対する信用を失わせる」という効果があったようである。つまり、多くの人々に、「現在の通貨が、どのような仕組みで成り立っているのか?」、あるいは、「現在の通貨において、どれほどの信用が供与されているのか?」を考えさせ始める効果があったようにも思われるからである。

そして、「これから、どのような事が起きるのか?」を考えた場合には、やはり、「1923年のドイツ」と同じような道筋を辿り、最後には、「1兆ドルのコイン」が発行される可能性が出てきたようにも思われるのだが、この時期は、それほど遠いものではないようである。