本間宗究(本間裕)のコラム

* 直近のコラムは、こちら

2012.9.26

ゼロへの対応

9月18日に、「ドイツ銀行」が、たいへん興味深いレポートを発表したが、それは、「金(ゴールド):ゼロへの対応」というものである。具体的には、「三つのゼロ」を指摘しながら「金の保有を勧めている」という内容だが、この「三つのゼロ」というのは、最初に、「ゼロ金利」のことであり、次に、「貨幣の流通速度が、ほとんどゼロに近い状態」のことである。そして、最後に、「通貨に対する信頼度が、ほぼゼロになっている」という点を指摘しているのだが、これらの点については、「金融システム」や「通貨制度」に対する理解が必要であるとともに、「現代のマネーが、実体経済の、約20倍にまで大膨張している」という事実認識が重要だと考えている。

また、今回、多くの業界関係者が驚いた点は、「国債を守る陣営」に属しているはずの「ドイツ銀行」が、正確な歴史認識を基にして「金の保有を勧めている」ということである。つまり、「膨大な国家債務」と、その裏側に存在する「デリバティブ」を守るために、今まで、「ゼロ金利政策」が実行され、また、「通貨の流通速度が抑えられた」という状況だったのだが、現在では、この結果として、世界中の人々が、「フィアットマネー」という「政府が発行する通貨」に対して、信用を失い始めているのである。

そして、これから起きることは、「悪貨は良貨を駆逐する」という「グレシャムの法則」が「世界的に働き始める」という点を、このレポートは指摘しているのだが、具体的には、「良貨である金(ゴールド)」を世界中の人々が退蔵し、一方で、「悪貨であるフィアットマネー」が市場に大量に出回ることにより、「市場から、金が消えてしまう」という状態のことである。つまり、今後、「金の価格が、バブル的な動きを見せる可能性」を指摘しながら、同時に、「金融システムや通貨制度が崩壊すると、ハイパーインフレに見舞われる」という点を述べたかったようにも思われるのである。

このように、今回は、「ドイツを代表するメガバンク」が、自分の不利益になるようなレポートを作成したのだが、このことには、大きな意味が隠されているようだ。つまり、「国債の買い支えが限界点に達した」という点や「間もなく、本格的な金融大混乱が始まる」ということを、暗に、指摘したかった可能性もあるようだが、「金融システムの崩壊」が意味することは、「ドイツ銀行も、大きな打撃を受ける」ということである。そのために、今回のレポートについては、「国債を守る陣営が内部分裂を始めた」という可能性も考えられるようだが、どちらにしても、「ハイパーインフレ」に見舞われた時には、「全ての人々に、大きな被害が出る」ということも、間違いのない事実である。