本間宗究(本間裕)のコラム

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2013.11.6

亡国の金融政策

現在、「日本の信用乗数」が急低下中である。具体的には、「マネタリーベース」という「日銀が供給する資金」が「約190兆円」という金額に対して、「民間銀行の資金供給量」を表す「M2+CD(マネーストック)」の残高が「約885兆円」という状況のことである。そして、この点を、「信用乗数=マネーストック÷マネタリーベース」の公式から考えると、現時点の「日本の信用乗数」は、「約4.6倍」という、実に危機的な水準にまで落ち込んでいることが理解できるのである。

つまり、「1990年前後の日本のバブル時」には、この数字が「約13倍」という状況だったのだが、その後は、「失われた20年」という言葉のとおりに、「民間銀行の信用創造能力」が低下しているのである。しかも、一方で、「日銀の資金供給」が、未曽有の規模で急増しているのだが、具体的には、「古典的な信用創造」とも言える「日銀のバランスシート拡大」が、現時点の「唯一の信用供給方法」とも言えるのである。

そして、このことは、「亡国の金融政策」とも考えられるようだが、具体的には、「1991年のソ連」を始めとして、「信用乗数の急低下」が行き着く先は、「金融システムの崩壊」、あるいは、「国家財政の破綻」が想定されるからである。つまり、「膨大な不良債権」を抱えた国家が「最後の手段」として取る方法が、「日銀による信用創造」とも言えるのである。また、「信用乗数が1にまで低下する」ということは、「民間銀行」が「機能不全の状態」となり、「全ての資金が、紙幣によって日銀から供給される」という事態を意味しているのである。

このように、現在では、「デリバティブ」や「債券」などの「市場による信用創造能力」が行き詰まりの状況下で、さらに、「民間銀行による信用創造能力」が、急速に低下しているのである。そのために、「日銀のバランスシート」が、「黒田総裁の就任」以来、「約7カ月間」で、「165兆円から217兆円にまで大膨張している状況」となっているのだが、この間に行われたことは、「当座預金」という「民間銀行からの借入資金」を増やしながらの「国債の大量買い付け」でもあったのである。

しかし、今後は、「日銀の資金調達」において、本格的な「紙幣の増刷」が想定されるようだが、この時に起きることは、更なる「信用乗数の低下」であり、その結果として、「大幅な円安」が予想されるのである。ただし、一方では、「円安」による「株価急騰」も予想されるのだが、このことが、本当の「インフレ時」に起きることである。