本間宗究(本間裕)のコラム

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2016.4.19

政策リスクの非対称性

先日の「クルーグマン教授のオフレコ発言」では、「政策リスクの非対称性」がコメントされていたが、このことは、「景気の好転と悪化の時に、リスクが違う」という考え方のことである。具体的には、「景気が好転し、インフレ率が上昇した時には、イエレン議長やドラギ総裁、そして、黒田総裁も、対処法を知っている」というものだが、一方で、「世界経済が悪化し、デフレに陥った時には、対処法が難しくなり、より大きなリスクにさらされる」という理解のことである。

別の言葉では、「大恐慌」と「大インフレ」の「違い」を述べているようにも感じたが、基本的に、現在、多くの人が恐れていることは、いまだに、「1929年の大恐慌」が再来する可能性でもあるようだ。つまり、現在でも、世界中で、多くの人々が「過去の亡霊」に怯えているようだが、実際には、「株価が暴落し、失業率が増える状況」のことである。しかし、この点については、きわめて「時代遅れ」の意見であり、「2008年のリーマンショックの時に、終了した議論」とも言えるようである。

別の言葉では、これから危惧すべき点が、「大恐慌」ではなく、「大インフレ」だと考えているが、実際には、「民間銀行の連鎖倒産」が引き起こしたものが、歴史上、唯一の「1929年の大恐慌」であり、その時には、「国家財政は、きわめて健全な状態」だったのである。しかし、「過去100年間で、30ヶ国以上で発生した大インフレ」については、「国家財政の行き詰まり」により、「金融システム」や「通貨制度」が崩壊したことが、最も重要な原因だったが、現在の世界的な金融情勢については、まさに、この通りの状況となっているようにも感じられるのである。

つまり、現在の「リスク」としては、クルーグマン教授の意見とは反対に、「景気の好転やインフレ率の上昇に対して、対処法が無くなりつつある状況」とも考えられるのである。別の言葉では、「出口戦略」という「金融の正常化」が困難なために、「国債の買い支えを継続することしか方法が無くなっている状況」のことだが、クルーグマン教授は、この点が理解できずに、「財政政策を実施すれば、世界経済が好転し、問題が片付く」と考えているようである。

別の言葉では、「ケインズ経済学」の一面だけを捉え、ケインズが、最も注目していた「貨幣論」が無視されているようだが、本当のリスクとは、「勝海舟」が述べたように、「学術を以て天下を殺す」という「世界的な国家財政の破綻」でもあるようだ。