本間宗究(本間裕)のコラム

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2024.5.14

スタグフレーションの再来

現在、世界の金融市場では、「1970年代のスタグフレーションが再来しているのではないか?」というような意見が頻繁に見受けられるが、この点には、大きな注意が必要だと感じている。つまり、当時の状況としては、「景気の低迷下で、なぜ、物価の上昇(インフレ)が発生するのか?」が理解できず、そのために、「景気の低迷」を表す「スタグネーション」と「物価の上昇」を表す「インフレーション」を合わせて、「スタグフレーション」という新語が作られたという状況だったのである。

より詳しく申し上げると、当時の状況としては、「デフレ」や「インフレ」という経済用語そのものが、きわめて曖昧な内容しかもっていなかったために、「現実世界で発生している変化に対応できず、より曖昧な言葉が作り出された状況」だったものと想定されるのである。つまり、「1923年のドイツで発生した急激な物価上昇」をキッカケにして、「風船を膨らませる」という意味で使われていた「インフレーション」が経済用語となり、また、「1929年のアメリカで発生した大恐慌」をキッカケにして、「デフレーション」という言葉が使われ始めたものの、きわめて曖昧な内容しかもっていなかったのである。

そのために、約50年後の現時点で、「これらの経済用語に、どのような問題点が存在したのか?」を考えると、実際には、「通貨価値の下落」を意味していた「インフレ」が、現在では、「実体経済の成長がもたらす物価上昇」へと変化した可能性も指摘できるのである。また、「デフレ」についても、同様に、「需要低迷による価格の低下」を表している状況とも思われるが、「1923年のドイツ」で発生した現象は、「国家財政の破綻がもたらした通貨価値の急激な現象」だったことも理解できるのである。

つまり、「1929年のアメリカにおける大恐慌」では、「民間金融機関の連鎖倒産」が発生したものの、「中央銀行の資金繰りや政府の財政状態には、問題が存在しなかった状況」であり、このことは、「国家財政が破綻した1923年のドイツ」とは、大きな違いが存在した状況だったことも理解できるのである。より具体的に申し上げると、「1970年代のスタグフレーション」では、「通貨への信用低下が実物資産への資金移動を発生させたものの、政府や中央銀行の健全性が保たれた状況」だったことも見て取れるのである。

しかし、今回の「世界的な金融混乱」については、「世界全体で、国家や中央銀行の信用が失われ始めている状況」とも言えるために、「1929年のデフレ」ではなく、「1923年のハイパーインフレ」が発生する可能性が高まっている状況とも思われるのである。