本間宗究(本間裕)のコラム

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2020.12.28

アウシュビッツの恩赦妄想

「極限状態に追いつめられると、人間は、どのような行動を取るのだろうか?」という疑問を持ちながら、初めて、フランクルの「夜と霧」という本を読んだが、現時点における感想は、「アウシュビッツの恩赦妄想」が、現在の「国家財政が破綻しない意見」と重なって見えたことだった。つまり、「アウシュビッツに収容された人々は、ほとんどが、恩赦妄想を持った」と説明されているが、このことは、「最後の最後まで、自分の命が助かるのではないか?」という期待を抱いていた状況を表しているのである。

また、この点に関して注目すべき事実は、「飢餓による思考停止状態」とも思われるが、実際のところ、「極端な飢餓状態に陥った人々にとって、興味の対象となるのは食べ物のことだけだった」とも解説されているのである。つまり、「欲望」という言葉が意味するように、「自分に欠落したものを望む状況」が窮まると、「それ以外のことが考えられなくなる状態」が発生する事態が指摘されているのである。

そして、この点を、現代にあてはめると、「1999年2月」から始まった「日本の実質的なゼロ金利政策」が、同様の「妄想状態」を表しているようにも感じているが、実際には、「国家の債務が増えながらも、日本の国家財政は破綻するはずがない」と信じ込まれている状況のことである。より具体的には、徐々に、「日本人の預金や現金」が「国債」に移行していった展開のことでもあるが、この理由としては、「日銀が、国民の預金を借りて国債を買い付け、超低金利状態を作り出した状況」が指摘できるのである。

ただし、この点に関して不思議な点は、「いまだに、ほとんどの人々が、自分の預金が安全である」と認識している状況である。つまり、「預金や国債を持つことがリスクオフであり、金融混乱期でも生き延びることができる」と理解している状況のことだが、この点については、まさに、「一種の思考停止状態」を表しているものと感じている。別の言葉では、「怖い事態は見たくもないし考えたくもない」というような心理状態に陥っているものと思われるが、実際には、「国家も、個人と同様に、借金が増え続けると、必ず、破綻状態に陥る」という真理が存在するのである。

つまり、「過去100年間で30か国以上がハイパーインフレに見舞われた」という状況のことだが、現在の「人々の心理状態」は、「お金の呪縛に囚われた人々が、デジタル通貨という目に見えないマネーを求めて、必死にもがいている状況」であり、結論としては、「金融界の白血病」に見舞われた時に、「心の闇や霧」が晴れるものと考えている。