本間宗究(本間裕)のコラム

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2024.3.5

サツキバー氏の数式

3月4日の日経新聞一面に掲載された記事には驚かされたが、それは、「サツキバー氏の数式」と呼ばれる理論、すなわち、「生成AIの爆発的な発展により、2040年に、GNP(国内総生産)が無限大にまで成長する」という意見だった。そして、この時に思い出されたのが、「バブル発生に伴う怪しい経済理論の存在」であり、具体的には、「1980年代後半の日本バブル」の時の「トービンのQ」であり、また、「1990年代後半のAIバブル」の時の「PSR(株価売上高倍率)」のことである。

つまり、「サツキバー氏の数式」は、典型的な「机上の空論」であるとともに、「マネー理論の欠如」、すなわち、「経済成長に伴うマネーの膨張が抜け落ちている点」も指摘できるのである。具体的には、「20世紀から21世紀にかけての経済成長」の分析において、「実体経済の成長」に伴い、その裏側で、「民間金融機関のバランスシート大膨張」という「マネーの大膨張」が存在していた事実のことである。

より詳しく申し上げると、「金本位制」から「信用本位制」と呼ぶべき通貨制度への変更の結果として、「紙幣」に加えて、大量の「デジタル通貨」が創造された状況のことである。つまり、「経済成長」に欠くべからざるものは、「膨張し続けるマネー」の存在とも言えるが、実際には、2008年前後にピークを付けた「民間部門のオンバランスとオフバランスの膨張」が、その後、「リフレーション政策」の実施により、「中央銀行のバランスシートが国民の気付かない方法で大膨張した展開」のことである。

別の言葉では、「四種類の税金」のうち、今までは、「目に見える現在の税金」と「将来の税金」に加えて、「目に見えないインフレ税」が、国民の気付かないうちに課されていたものの、現在では、「国民の気付く形でインフレ税が課される展開」、すなわち、「債務の貨幣化」と呼ばれる「財政ファイナンス」の実施が想定される段階に差し掛かったものと考えられるのである。

具体的には、「紙幣の大増刷」、あるいは、「CBDCの大量発行」により、「中央銀行のバランスシートが無限大に膨張する可能性」が想定されるが、この結果として発生する事態は、「名目GDPの無限大の成長」とも理解できるのである。そして、このことが、冒頭の「サツキバー氏の数式」が意味することであり、実際には、「1600年前の西ローマ帝国崩壊時」と同様に、「生成AI」とは無関係の「古典的なハイパーインフレの発生」とも考えられるようである。