本間宗究(本間裕)のコラム

* 直近のコラムは、こちら

2024.12.11

1930年の関税法

トランプ次期大統領の政策の一つに「関税率の上昇」が想定されているが、その結果として、現在、大きな注目が集まり始めているのが、「スム―ト・ホーリー関税法とも呼ばれる1930年の関税法」である。具体的に申し上げると、「1930年6月17日に成立した関税法」については、「20,000品目以上の輸入品に関するアメリカの関税を記録的な高さに引き上げた。そして、多くの国は米国の商品に高い関税率をかけて報復し、アメリカの輸出入は半分以下に落ち込んだ。一部の経済学者と歴史家は、この関税法が世界恐慌の深刻さを拡大した、あるいはそれ自体を引き起こしたと主張している」というような状況だったとも説明されているのである。

そのために、今回も、「1929年の大恐慌が再来するのではないか?」というような意見が出始めるとともに、「実体経済の落ち込み」と「再度のゼロ金利政策」を想定する人々が増えているが、実際には、「まったく違った状況」のようにも感じている。つまり、「1929年」と「現在」とでは、「経済の規模」や「金融システム」などにおいて、大きな違いが存在するために、単純な比較ができない状況であり、また、重要なポイントとしては、「米国の大恐慌は、1923年にドイツで発生したハイパーインフレを過度に恐れた結果としての出来事だった」という事実が指摘できるものと思われるのである。

より具体的には、「当時のアメリカでは、金貨本位制が採用されるとともに、第一次世界大戦で巨額の外貨を獲得した状況」だったが、実際の展開としては、「ハイパーインフレの再発を恐れた米国政府が、金融引き締めを実践し、民間銀行の連鎖破綻を引き起こした」という状況だったのである。つまり、「高い関税率」よりも「民間金融機関の連鎖破綻」の方が、実体経済に、より大きな悪影響を及ぼしたものと想定されるが、この時の注目点は、「国家財政は、現在とは違い、きわめて健全な状態だった」という事実である。

そのために、今回の「トランプ関税」については、当時と同様に、「実体経済の悪化」は想定されるものの、より大きな問題点としては、「税収の減少がもたらす国家財政の悪化」と、その結果として予想される「金利の急騰」が指摘できるのである。つまり、「1991年のソ連」などと同様に、「国債の買い手」が消滅した結果として、「長期金利のみならず、短期金利までもが、きわめて短期間のうちに急騰する事態」のことでもあるが、この結果として発生した事態は、「インクが無くなるまで大量の高額紙幣が印刷された展開」であり、また、「ルーブルの価値が、短期間のうちに3000分の1にまで急減した状況」だったことも思い出される次第である。